目を覚ました私の体には薄い肌掛けが掛けられていた。
私がめちゃくちゃに荒らしたリビングはきちんと片付けられている。
とりあえず二日酔い気分をスッキリさせたくてシャワーを浴びた。
そしてリビングに戻ると彼がいた。
「おう、起きたか酔っぱらい(笑)」自分は大人だから昨日のことは気にしてませんよー…と言わんばかりの爽やかな笑顔にイラッとした。
「暴れてもいいけどさ、まずは話さないとダメってわかってるよね。」「………。」「一緒にいる以上、自分の問題は二人の問題なんだよ。」「うん。」ひと暴れして飲んだくれて久々にぐっすり眠ったせいか、なんとなく気分がスッキリしている。
私は彼に話してみた。
嫉妬心、悔しさ、悲しさ、虚しさ、いよいよ風俗を辞めるというときに自分がこんな風に壊れてしまうなんて思いもしなかったこと、戸惑い、不安、絶望感、思っていることを全部正直にぶちまけた。
それに対し、彼も話をした。
これまで口にしなかった想い、私が仕事を辞めるにあたって思っていること、昨日のこと、これからの私のこと、これからの二人のこと。
異常なほど時間をかけて話し合った。
そして結果的に、やっぱり風俗を辞められる私は幸せだと感じることが出来た。
仕事を辞めることも引っ越すことも彼といることも嬉しい。そう思わせてくれた彼に感謝した。
「睡眠OK、話し合いOK、あとの課題はメシとエッチだな(笑)」「じゃあ、ごはん連れてって。」彼は、二人はとにかく話し合えばどうにかなると…少なくとも話し合わなければどうにもならないということを知っている。
距離を置くと私の心が離れていくということも知っている。
嫌なことから目を背ける弱虫な私を話し合いの場に引きずり出して徹底的に話し合う。
すぐに円満解決できることもあれば、理解し合えず折れたり引いたり妥協し合ったりもするが、いつもこうやって二人は前に進んでいく。
それからまもなく、私は風俗を辞めた。
完全に風俗業界から足を洗うことができ、やっと開放された安堵感でいっぱいだった。
『もしかして受刑者が出所するときってこういう気分かなぁ…』
よく出来たことに私には身元引き受け人(彼)と支度金(新居)も揃っている。
『でも受刑者ってあそこまで辛い思いはしてないよねぇ…』
そんなことも考えた。
-148へ続く-