『あ、そうか。私達は(セックスを)してないんだ!』
私が“ホテル”と聞いてドキドキするのも無理はない。
彼とは店でのプレイも最初のうちだけだったし、最後に裸で抱き合ったのがいつだったかも思い出せない。殆ど話している記憶ばっかりだ。
そう言えば「外で会いたい」って言われたときは2ヶ月ぐらい前かな、あの日は一応見たは見たけど何もしてないし…。
初めて外で会ってから約3週間。“お互いに好き”とわかった後も、手をつないだだけでキスさえしていない。
…うーん。
そして着いた先は、一流(と言われる普通の)ホテルだった。
なんてこった!
ホテルと聞いてラブホを連想した自分が恥ずかしい。
彼はなにもエッチなことをしにここへ来たわけではない(当然)。
海に行かないからといって私をあの家に帰すわけにもいかず、気分転換にここでゆっくり休ませようという考えだ(たぶん)。
ただ、都内に住んでいると(私の場合は)都内のホテルに泊まることなんて滅多にないので、それはそれでまた別の緊張感があった。
部屋は普通のツインルームだったが窓からの眺めは良く、外は華やかな東京の夜景が広がっていた。
よくもまぁ金曜の夜にこんな部屋が取れたと思うが、実はなかなか取れなくて、だからこそあちこちに電話をしていたのかもしれない。
私が窓に貼り付くようにして夜景を見ていると、彼が部屋の明かりを消した。
「暗いとよく見えるから綺麗ね。」「うん。」二人で手をつないで窓際に立ち、あそこに何が見えるだの見えないだの言いながら夜景を見ていた。
しばらくすると彼は私の方を向いて手を伸ばし、私の頬に触れて顔を自分の方へと向けさせた。彼の手は私の髪を撫で、ピアスを触り、また頬を包み込んだ。
彼の顔がゆっくりと近付いてきて、私は目を閉じた。
唇と唇が重なった。
彼と初めてのキス。
厳密には違うが、でも私にとって『彼との初めてのキス』、そういう気持ちだった。
唇を離すと見つめ合って、今度はどちらからともなく長いキスをした。
私はもう気持ちも体も止まりそうになかった。
繋いだ手をほどいて抱き合い、それからまた何度もキスをした。
-75へ続く-
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