しばらく楽しく食事をしていたが、だんだん彼の口数が減ってきた。
そして私を見て黙り込んだが、その目つきが鋭かったので私は嫌なものを感じた。
「なーに?どしたの?」
「なんですぐ連絡してくれなかった?」「あ…、だからそれは、」「じゃなくて。どこにいる?って聞いたときも勝手に電話切っただろ?」「…うん。」「俺そんなに頼りない?」「そんなことないよ。でもユウくんには知られたくなかったから。」「じゃ、誰ならいいの。」誰ならいいって…そういう問題じゃないのに。
なんでそんなこと言うんだろう。
あんな状況で好きな人に頼れるわけないじゃん!
「男の人にはわからないよ。」「そう言うはるかちゃんも俺の気持ちがわかってないね。」もう…ああいえばこう言う。
「あんな所で一人で泣いてたかと思うと、すごく悲しいし悔しいんだよ。」そう言われて私は初めて彼の気持ちを一つも思いやっていない自分に気付いた。
『こんな姿を見られたくない』
『連絡もせずに待たせて申し訳ない』
『いろいろ気遣ってくれてありがとう』私はそれでいっぱいいっぱいだった。
彼は私にきちんとした服を着せるためにお姉さんのブティックを抑え、私と同じ女性であるお姉さんと二人だけで話をさせてくれた。
洋服と靴を選んで買い与えてくれて、元の服はお姉さんに捨てさせた。
食事は私が落ち着けるように個室に変更して予約した。
彼は完璧だった。
私が今ここで新しい服を着て食事をし彼と一緒にいられるのは、全部彼のおかげだ。
彼は私に「誰にやられた」とだけ聞き、その他のことは一切聞いて来ない。
私に隙があったとか責めるようなこともなく、ただただ優しくしてくれる。
彼が言いたいことはただ一つ、『自分を頼れ』と。
私があの状況で彼に助けを求めなかったことが、彼にとって『すごく悲しいし悔しい』、そういうことだと思った。
「ごめんなさい。よくわかった。」-73へ続く-
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そもそも家と私が居た場所と待ち合わせ場所、この3つが近すぎたのですが、それでも凄いですね。隠れていることを前提に探したんでしょうかねぇ(笑)
初めて会ったときのことはよくわからないのですが、“動物的本能”を感じたのだとしたら嬉しいです。