「お姉さんにまで御迷惑をおかけして申し訳ありません。」「いいのよぉ。全然気にしないで。」「本当に、ありがとうございます。」
「ちょっといい?」彼が薄い水色のワンピースを持ってやって来た。
「はるかちゃんにバッチリ似合うやつ選んだよ。」「あんたその前にサンダルを持って来なさいよ。」お姉さんはそう言うと服を受け取って彼を向こうへ追いやった。
「ああいうところがダメなのよね。気が利かないんだから。」彼はしっかりしている人だと思うけど、お姉さんと一緒にいると『いかにも弟』という感じでなんとなく微笑ましかった。
彼も優しいけれど、初対面でこんなにも優しくしてくれるお姉さんに私は心から感謝した。
彼がサンダルを持って戻って来た。
私はサンダルを履き、彼が選んでくれた服を持って試着室に入った。
彼が選んでくれたのは、Tストラップのウェッジソールサンダルと、リボンを肩で結ぶタイプのノースリーブの水色のワンピースと、花の刺繍が入った紺色のカーディガンだった。
サンダルもワンピースもカーディガンもブランドのタグは付いていたが値札は付いていない。
彼が私に気を遣わせないために値札を取ったのだと思った。
試着室から出ると彼は「可愛い、可愛い」と褒めてくれた。
そして、試着室に脱ぎ捨ててあった私の服を拾ってお姉さんに手渡した。
「はるかちゃん、ブラウス引き取るわよ。」「あ、自分で処分します。」「そんなの持ってデートなんてダメよ。あら、スカートとカーディガンも?」「んなもん全部いらねーよ。」彼はあからさまに嫌な顔をしていた。
「んじゃ行くわ。ありがと。」「はるかちゃん、何かあったらまたここに来て。何もなくてもね。」私はお姉さんにお礼を言って頭を下げ、また、近いうちに改めて伺うことを約束した。
-71へ続く-
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承知いたしました◎