その日の帰りの電車の中で、私は彼氏のことを思い出した。
信じられないことだが、彼と過ごしていた3時間から今の今まで、私は自分に彼氏がいたことなどすっかり忘れていたのだ!
『なんてこった!』自分でもビックリだ。なんて大それたことをしてしまったのだろう。
え~~~~~っ! どうしよう!
これって浮気?心変わり?二股?何?どれも経験がない。まさか私がそんなことをするなんて。
自分が今置かれている状況に混乱した。
会うだけなら浮気じゃない?いや、浮気だ。
彼のことが好き。彼氏のことも好き。
やばい。こんなの許されない。家に帰るのが憂うつになった。
彼氏に合わせる顔がない。かと言って他に行く宛もないし、妙なことをして勘ぐられても困る。
仕方なく普段どおり家に帰った。
家に着くと、そこではまた驚くべき事態が待ち受けていた。
まだ仕事から帰っていないはずの彼氏が家にいたのだ。
「どうしたの?」「具合悪くて早退した。」「大丈夫?」「うん。超復活したからカレー作っといたよ。」5年間の同棲生活の中で、彼氏が具合悪くて早退なんて初めてのことだし、彼氏が一人で夕飯を作ったのも初めてのことだ。
「腹減ったー、早く食べようぜ。」「うん!ありがとう。」なんで今日に限ってこんなことしてくれるの?
『悪いことは出来ないぞ』って神様に言われてるみたい。
「なかなかうまいだろー。」何も知らない彼氏の笑顔を見ていると心がとがめた。
-29へ続く-
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