しばらくすると携帯のバイブが鳴った。それは彼からの着信だった。
気付けば彼との待ち合わせ時間からは1時間以上も過ぎている。
私は迷ったが電話に出た。
「はるかちゃん、どした?大丈夫?」「ごめん、今日行けなくなっちゃった。」「泣いてるの?何があったの?」私は泣いていなかったが、いかにも泣いた後の声だったのかもしれない。
「大丈夫よ、連絡も入れないで本当にごめんね。」「今外だよね。どこにいるの?」「また電話するね。」私は電話を切り、電源も切った。
とりあえず夜中までここに隠れて親友に電話して迎えにきてもらおうかと考えた。他にどうすればいいかわからない。
バッグとカーディガンを持って家を出られたのは運が良かったが、靴を履いていないのは致命的なミスだった。
『パンツ!そうだ、替えの下着を持ってた!』
私は通りの方に目をやった。人通りはあるがこちらに気付く者はいない。
私はバッグの中からポーチを取り出し、その中からパンツを取り出した。
立ち上がって通りの方に目をやりながら、おそるおそるパンツをはく。
こんな所を誰かに見られてはシャレにならない。こんな場所でこんなことをしている自分が情けなくて惨めに思えた。
そんなときに彼と目が合った。
「はるかちゃん?」私はたくし上げたスカートを戻し、慌ててカーディガンとバッグを拾って抱えた。
彼はこちらに向かって歩き出し、それを見た私は奥へと歩いた。
「待って!」彼からも逃げたかったが、裸足でゴミやら何やら踏んで、足元がわけのわからない感覚になってうまく歩けなかった。
「どうしたの?何があったの?」私は何も言えなかった。
「もう大丈夫、心配ないよ。」最悪だ。彼にだけはこんな自分を見られたくなかった。
-68へ続く-
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生き甲斐を感じるのは良いことだと思います。
そういうことがパワーになるから、疲れてても頑張れるし元気になれるんですよね。
『これしか』と言いますが、じゅうぶん忙しそうに見えますよ~