翌日、私は出勤途中の電車の中でも彼のことを考えていた。
それにしてもおかしい。
仕事のことを引きずるなんて初めてのこと。私らしくない。
彼のことはいい人だと思うけど恋愛感情はないし、大勢のお客様の中の一人にすぎない。だけど何かが引っ掛かっている。
考えて考えて、そしてある重大なことに気付いた。
『私、あの人にはひとつも嘘をついてない!』彼は自分のことはいろいろ話すけれど私にはあれこれ聞かないから、私は自分のことは一切話さない。
いつもお客様には嘘で固めているこの私が、彼にだけは何一つ嘘をついたことがないというこの事実、私にとってはかなりショックなことだった。
普通は、何度も何度も来店している常連さんで少しでも会話をする人であれば、回を重ねるごとに嘘もそのぶん多くなる。
一つの嘘が二つ目の嘘を呼び、どんどん嘘だらけのはるか像が作られる。そして私は毎回そのお客様にとっての"はるか"を演じる。
けれど彼に対してはそれがない。
ここ半年ぐらいを思い返してみると彼と過ごす時間は確かに楽だった。プレイが楽とか抜かなくていいとか、どうやらそれだけじゃなかったようだ。
私は自分の話を一切しないことによって完璧にガードできていたつもりだったのに、むしろ一つも嘘をつかないことによって自分でも気付かないまま自分自身をさらけ出していたのかもしれない。
『私にとって彼は特別なお客様なんだ』と確信した。
-12へ続く-
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ご訪問&コメントどうもありがとうございます。
会話はその場の雰囲気と相手にもよるので難しいですよね。
『何と何を言っちゃいけない』と考えるよりも、会話においては『女のコを風俗嬢扱いしない』というのがポイントかな、と思います。
ただ、中にはお客様に対して失礼なことを言う女のコもいると思うので、そういう場合は好きにやり返していいんじゃないでしょうか(笑)
逆に、プレイにおいては気兼ねなく楽しむべきだと思います。
矛盾しているようですが、『風俗嬢の心には踏み込まずに、風俗嬢ならではの性的サービスはしっかりと堪能して頂きたい』というのが私の意見です。
『風俗嬢とお客様の恋愛』については、自分の心情を書きすぎて話がなかなか進まないことに自分でもイライラしています(汗)
まだまだ先が長いので末長くお付き合い下さい。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。