「ねえ、このあと時間ある?」「うん。」「じゃあ、ごはん食べに行こう。」私と彼は店にバレないように、店の最寄り駅ではなく3つ先の駅で待ち合わせすることにした。
ここは特殊な風俗街だ。
店の近辺はもちろん、駅までの道路や駅前も、いろいろな店の風俗店のスタッフ達が散り散りに立っている。
彼らは自分の店の前には立たず、たとえばパチンコ店の前で煙草を吸っていたり、どこかのビルの非常階段から見下ろしていたり、交差点にいたり、駅前で誰かと待ち合わせているかのように立っていたり、様々だ。
呼び込みや客引きなどは一切しないし服装もカジュアルなので、知らない人は風俗店のスタッフとは思わないだろう。
でも、私の場合は他店のスタッフ達にも面が割れているので、自分が在籍する店だけではなく街全体にバレないように注意しなければならなかった。
店を出た私はコンビニに寄って封筒を買った。
駅に着くとトイレの個室に入り、バッグから財布と封筒を出した。
今日の上がりの中から彼に返す分を封筒の中に入れてバッグにしまい、電車に乗って彼と待ち合わせした駅に向かった。
改札を出ると彼が待っていた。
待ち合わせをするといつも必ず私より早く着いている。
駅近くの車を止めた場所までは手をつないで歩いて行った。彼とはもう何度も手をつないでいるのに私は未だに緊張する。
私は車に乗るとすぐにバッグから封筒を出して彼に差し出した。
「これ、間違えちゃった分。何も言わないで受け取って。」「おう。」彼はスマートに受け取ってくれた。
このお金を受け取るには普通はプライドが邪魔をすると思う。
ましてや、彼はデートのときの食事代やガソリン代など、私からのお金は1円たりとも受け取ってくれない。
私は、封筒を見た瞬間にすべてを察して私の気持ちを汲んでくれた、彼の頭の良さと器の大きさに感心した。
-64へ続く-
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その代わりになるようなサービスってなんでしょうね。
私には思いつかないですが、それで成立しているってことは何かがあるのでしょうね。
出勤時間が『6:00-16:00』というのは、朝6時に出勤?
私には謎だらけの世界です。