私は彼が打ちのめされた姿を見て優越感に浸った。
いつも自信に満ちあふれて何事にも動じない彼がこんなふうに泣いているのは、嬉しくて楽しくて爽快な気分。
そして、そんなふうに思う、ねじ曲がった自分が恐ろしかった。
こんな最低なやり方で大好きな人を怒らせて傷つけて泣かせて、こんなことに一体なんの意味があるんだろう。
私はどこまで病んでいるんだろう。
この人は、今夜ここに何しに来たのだろう。
優しくて育ちの良さそうなこの人の過去に、誰かにここまでコケにされたことってあったのだろうか。
「ユウくん。」「ん?」彼は私の肩に顔を押し付けたまま返事だけした。
「いかれた風俗嬢と付き合うのは考え直した方がいいかもね。」「悪いけど俺の気持ちは変わらないよ。」「負けず嫌いもそこまでいくと病気だね。」「全然なんともない。はるかちゃんのこと大好き。」彼は顔を上げた。
いかにも泣きはらした赤くなった目で私をみつめて鼻水をすすった。
「はるかちゃん、実家にいたとき犬飼ってたんだよね。」「それが何?」「俺にとってはるかちゃんはね、ペットみたいなもんなんだよ。」「?…どう言う意味よ。」「何を言われても何をされても可愛くて仕方ない。」私がペット?
あんなこと言われても可愛いと思う?
泣いた男がよく言うよ。
彼もついに頭がおかしくなったのかもしれない。
-98へ続く-
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